目次
本日は、「いかに古文学習に時間をかけないか」をテーマに、時短学習の心強い味方となる漫画についてご紹介していきたいと思います。
古文・漢文の勉強に貴重な時間と労力を割くことは、限られた時間の中での勝負である入試において、きわめて深刻な損失とならざるをえません。
ではどうすればいいのでしょうか。
私たちがおすすめするのは、漫画で古典作品のあらすじと背景知識をざっくりと頭に入れておく、というやり方です。
受験科目というフォーマットである以上、『源氏物語』であろうが『方丈記』であろうが、与えられた文章を読み解いて答えを出すという点では現代文と全く同じ。最終的にものを言うのはあくまでも読解力です。
ただし現代文とは異なり、作品が書かれた当時の一般常識などの背景知識も必要なのが古文という科目。
通常古文の勉強と言えば、語彙・文法と背景知識(あらすじや文学史的な知識など)の二本立てで行います。
ですが前者は、古文という受験科目でしか必要とされない知識です。これにどれだけ時間をかけても、取れる点数はたかが知れている。それに時間をかけることは、合理的な選択とは言えません。
であれば、知っているだけでそこそこの得点に結びつく可能性がある後者に注力した方がはるかに効率が良いでしょう。それにこちらの知識は、現代文や日本史においても得点につながる可能性が十分にあります。
とは言え注意しなければいけないのは、語彙・文法を捨てて古典知識マスターになれ、というわけではないということです。細部にこだわり過ぎずざっくりと、あくまで必要なことだけを頭に入れればそれで十分なのです。
そのような知識の獲得に最も適しているのが漫画である、というわけです。
前置きが長くなってしまいましたが、これから紹介するのは、まさに古典作品を「ざっくり理解する」ことを眼目とした作品です。
平安文学の最高峰とも言うべき『源氏物語』ですが、全54帖から成るこの長編物語を全て読むことは、受験生には到底不可能です(受験生でなくともかなり大変なことでしょう)。
でも大河で話題になったし、勉強の息抜きがてら寝転がって読めるような、各帖を手短にハイライトしたようなものがあればな…
そんな贅沢な悩みを解決してくれるありがたい本が、なんと2002年(!)に出版されています。
それが本日紹介する、
小泉宏『大摑源氏物語 まろ、ん?』
という作品です。有名ですので、ご存知の方も多いかと思います。
この作品の魅力について、3つのポイントから述べてみたいと思います。
全編このような感じで、手軽にかつしっかりと『源氏物語』のあらすじと背景知識をインプットすることができます。
本作は受験生の心強い味方だと言えるでしょう。是非手に取って頂きたい作品です。
ここからはおまけで、『まろ、ん?』と合わせて読みたい書籍を2つご紹介したいと思います。
本書は『源氏物語』全54帖を順に辿っていくという点では『まろ、ん?』と同じですが、タイトルにもある通り、各帖を代表する和歌に焦点を当てて物語を辿っていくという試みになっています。
『源氏物語』にはなんと795首もの和歌が登場し、すぐれた歌人でもあった紫式部の面目躍如なわけですが、『まろ、ん?』ではあまり和歌は取り上げられません。
本書では物語のキーポイントとなる和歌100首が厳選されており、著者の意図とは異なるでしょうが、「百首で学ぶ古文」のような趣があります。
つまり、和歌を取り上げて一つ一つ解説していくというスタイルによって、本書は古文例文集のようになっているということです。
100首も読むと、よく使われる掛詞や枕詞も分かってきますし、和歌に詠まれる物にどのような意味が込められているのかも分かるようになります。例えば、「橘の香り」は「恋人を思い出させるもの」、など。
しかし何よりも重要なのは、これだけ読むと、細かい文法が分からなくても大体の意味がつかめるようになってくるということです。後半は、「多分こういうことだろうな」と、ある種ゲーム感覚で和歌の意味を推測しながら読んでいましたが、徐々に精度も高くなっていったように思います。
「この掛詞は前にも出てきたな」みたいなことが結構あり、英語の構文解釈をやっているような気持にもなりました(笑)
本書では細かな文法事項の解説などはありませんが、原文とセットで現代語訳と解説を読むだけでも、ある程度古文は読めるようになることが実感できます。
こちらも手軽に読めるものなので、手に取ってみてはいかがでしょうか。
書誌情報:木村朗子『百首でよむ「源氏物語」』平凡社新書、2023年
2022年に出版された本書は、平安時代の文物や習俗などを、
Ⅰ 王朝の空間
Ⅱ 王朝のライフ・サイクル
Ⅲ 王朝のファッション
Ⅳ 王朝の日常生活
という4つのカテゴリーに分けて説明している辞典です。
辞典と言っても文庫なので、気になる項目をパラパラ読める、これも手軽な書籍になっています。
例えばⅣの「音楽と舞」には、<青海波、胡蝶、隆王、納曾利>という項目があり、『源氏物語』においても登場する「青海波(せいがいは)」という舞についての説明があります。
この書籍の優れている特徴は、ある単語が出てくる作品の引用が、現代語訳(原文)という形でなされているというところです。一部引用してみます。
源氏の中将は、青海波を舞っていらっしゃるのでした。そのお相手は左大臣家の頭中将、顔立ちや態度は普通の人とは違って素晴らしいのですが、光源氏と立ち並んでは、やはり花の傍らにある深山木といったところになってしまいます。
(源氏の中将は、青海波をぞ舞ひたまひける。片手には大殿の頭中将、容貌(かたち)用意人にはことなるを、立ち並びては、なほ花の傍らの深山木なり。)
『はじめての王朝文化辞典』、380頁。
原文が先で現代語訳が後にくることが多いと思うのですが、本書は現代語訳の方が先。このことによって、筆者による地の文と引用がシームレスにつながっており、非常に読みやすいものとなっています。
また引用箇所の解説も丁寧で、例えば上の引用は『源氏物語』の「紅葉賀(もみじのが)」の一節ですが、登場人物の心情はもちろん、この場面の構造(青海波という舞の華々しさと、源氏との不義の子を宿した藤壺のうしろめたさの対照)の解説などもあります。
引用は『源氏物語』だけでなく、『枕草子』や『蜻蛉日記』など他の作品からも多くされており、一項目読むだけで複数作品に触れながらその周辺の知識まで確認できる、まさに一石二鳥以上の読む辞典と言えるでしょう。
書誌情報:川村裕子著・早川圭子絵『はじめての王朝文化辞典』角川ソフィア文庫、2022年
大学入試の勉強において、古文の勉強ほど時間の浪費となるものはありません。
教養としての古文・漢文は言うまでもなく重要ですが、「教養としての重要性」はそのまま「受験における重要性」とイコールになるわけではありません。むしろ衝突することの方が多いでしょう。
そこを履き違えると、目先の受験とは関連性の薄い勉強に走ってしまうことになります。
点数に結び付きにくい徒労を一生懸命することになってしまうわけです。
古文の「勉強」は、すきま時間に漫画や新書を読めばそれで十分だと言えるでしょう。
受験においては、「大学に入ってからのこと」ではなく「大学に入ること」、つまり眼前の試験を突破することこそが最重要なのであり、それ以外のことではあり得ません。得点比重の大きさを考えれば、古文よりも英語に力を入れる方が合理的でしょう。
時間は有限。その貴重な時間をいかにうまく使うかが、合否を分けることになります。
無駄を排して合理的な勉強をしていきましょう。